幼稚園児の心理
幼稚園では、たまに母親参観があった。
その日は教室から離れて、集会場みたなところでみんなでお弁当を食べるのだ。
食べる前には必ず、(おべんと~おべんと~~たのしいな~~♪)的な歌を歌った。
「お弁当の歌」に合わせて、リズムをとって手をたたき、座ったままでの振り付けは楽しみでもあった。
もちろん私も完璧に「お弁当の歌」をマスターしていた。
しかし、母親参観の時だけは違った。
母が来ている・・というだけで、私はいつもの自分を出せなくなった。
みんなが両手をあげて大きくたたく時、私は机の下で小さく指先だけたたいた。
みんながげんこつを交差させる時、私はひざの上で手首を動かした。
みんなが大きな口をあけて歌っている時、私は口をぎゅっと閉じて歌が終わるのを下を向いて待った。
みんなは自分の親の前で、一生懸命頑張っていいところを見せようとしているのに、私ときたら、みんなと一緒に楽しく歌っている姿を、自分の母に見られたくないという、よくわからない感情があった。
その時のことは、いまでも鮮明に覚えている。
「あんただけなんで歌わないのっ!!みんな歌っているのにっ!!」
怒ったように母は言った。
「いつもちゃんとやっているもん!!」心の中で反論することしかできなかった。
私はそんな子供だったのである。
自分の幼稚園での生活を、母に見られるのがなんとも恥ずかしく、いつもどおりやれなかった。おかしな子供だった。
4歳や5歳くらいでも、いろんなことを思うものなのだ。
みんなが当たり前にやっていることが、我が子だけやれないのを見る母は、どんなにかもどかしく恥ずかしかったことだろう。
大人になってから当時のことを思うと、子供の時の自分よりも親の気持ちのほうに重きがいく。