幼稚園の頃、路線バスには運転手さんの他に車掌さんもいた。
首から下げた大きながま口型のカバンから乗車券を買う。
男の人もいるのだが、私の乗る時間帯は女性の車掌さんだった。
ドアは車掌さんが手で押したり引いたりして、開け閉めした。
「発車オーライです」「次はなんとか~~です」「降りる方いらっしゃいますか~~?」by車掌さん。
「降りま~~す」「は~~い!!」by乗客
そんなやりとりだった。
車掌さんは子供やお年寄りには特に親切で、席まで誘導してくれたりもした。
だからこそ幼稚園児だけでバスに乗れたのだと思う。
ところが少しずつワンマンバス化していき、とうとう1年後には車掌さんは消えた。料金は、直接運転手さんのところ。
私はがま口(親からあたえられていた財布)が固くて、なかなか開けられなくて、いつも友達のサカエちゃんに開けてもらっていた。同級生のサカエちゃんは背も高く力も強いので、すごく頼りになるお姉さん的存在だった。
そんなサカエちゃんも普通の幼稚園児である。
熱も出れば風邪もひく。そんな時は当然ひとりでバスに乗るしかなかった。
行きは運よくがま口があいたが、帰りはなかなか開けられなかった。
バスに乗った瞬間から頑張っていたが、がま口はびくともしない。
降りるバス停が近づきこのままではバスから降りれないと、涙がこぼれてきた。
そんな私に見知らぬおばさんが気づいて声をかけてくれ無事降りることができた。おとなしい私は、泣くのも静かだったため、大人に気づかれるのも遅かった。
振り返ると解決策は、いくらでも出てくる。
バスの中で「がま口あけてください」と言えばいいのだ。
幼稚園で誰かに「がま口あけて」と言って、ポケットに入れるか手に握ってからバスに乗ってもよかった。
それ以前に親に「がま口あけられない」と言えばいいのに。
でも悲しいかな私は、自分の思っていることを外に発するのが苦手な子だった。
同時に、サカエちゃんがいるから、なんとかなる・・・そう思ってやり過ごしてきたんだろうな。
もうこんな小さな時から、人間って作られているんだな。
今の自分にすべてつながっている。